皆様は、現場には「イノベーション難民」という言葉があるということをご存じだろうか。政府はイノベーションを成長戦略に掲げている(図表1)。企業も非常に魅力的な美しい言葉でイノベーションを喧伝している(図表2)。
そこで「イノベーション難民」とは何かと言えば、およそ次のようなことである。イノベーションを経営のテーマに掲げている企業は多い。しかし、その実行は容易ではない。社内で優秀な人材を集めて新事業の開発を命じるが、イノベーションと言われた途端に何から手をつけてよいか分からなくなる。そんな大手企業の現場において苦闘する技術者たちは、自らを「イノベーション難民」と呼んでいるのである。
現在、国は「科学技術イノベーションをやるぞ」ということで、総合戦略として内閣府が進めている。企業もスローガンを掲げているが、期待と現実の間にギャップは大きい。現場が喜んで仕事を行っているかと言うと、そうではない。むしろ、官民の期待との陰で現場の責任者は苦悩し続けているのだ。これは日本特有の現象であると言える。
このような事態の背景にはコトバの問題がある。「Innovation」という英語の意味を十分考慮せず、安易にカタカナ表記で済ませて使い始めてしまった。発音をカタカナ表記にした途端、それは日本語であるため、何となく分かったような気持ちになる。辞書を引けば一応の定義は書いている。しかし、社内で使用するときも、およそ明確にその意味が定まっているわけではない。つまり、政府も企業もイノベーションという言葉の定義を曖昧にしたまま、長年に亘り使ってきたのである。
カタカナ言葉には何となく魅力的な雰囲気を感じさせる効能があるため、訳せないときは英語をそのまま音表記で使用してしまうという習慣は現在も顕著であり、例を挙げれば限がない。感性や意気込みをアピールするのではなく、もっと客観的で具体的な定義を決めて共有できるようにすれば国内外でも合理的に対応できるのだが、そうした動きはない。