英語の問題に戻るが、「Innovative」は形容詞で「革新的」という意味がある。「Innovation」は名詞で、英語では結果を表す言葉である。何かをやって大きな結果をもたらし、しかも成功すれば、「Innovation」となる。成功しなければ「Innovation」とは言わないのである。結果的にこのことはあまり議論されずに1958年発行の経済白書から半世紀ほどの間、定義もなく曖昧なまま放置されていたことになる。だから今でも政府ですら中味が曖昧なまま「イノベーション」と言い続けている。企業もテレビなどでキャッチフレーズとして「イノベーション○○」と使っている。
従って、部下や上司に「イノベーションって何ですか?」、「新製品開発とイノベーションの違いは?」、「イノベーションを始める時、重要な事は?」等を質問されても、なかなか一言では答えられない。我が国の政策を担う関係者は「これからLEDのように研究費を使ってノーベル賞を取る。そうすればイノベーションが起きる」と言う。つまり、「イノベーションを起こすには画期的な発明やノーベル賞級の研究が重要である」という思い込みがあるのだ。確かに、革新的な技術や世界的な新技術があれば新製品はできるであろう。しかし、それが即、イノベーションであるという訳ではない。この点に大きな誤解がある。何故なら、新製品ができてもイノベーションの達成に至らなかった事例は数多いことから、その齟齬は明確である。
多くの企業が毎年新製品を出しているが、その中に「イノベーション」と言われるものは、それほどあるわけではない。革新的な技術で製品を生み出したからと言って、安易に「イノベーション」と呼ぶことは適切ではない。例えば現在、iPhoneをはじめスマートフォンが全盛である。ある意味、それは「イノベーション」と呼ぶに相応しい。しかし実は、1996年に著名な日本の電気メーカーから全面タッチパネルの現在のスマートフォンとよく似た商品が開発され実用化されている(図表6)。もちろんiPhoneはこれを真似したわけではない。企業名はあえて伏せているが、このチャンスを活かせなかった。アップル社が商品化する10年前の出来事である。
当時、携帯電話の画面の半分が、操作ボタンで占められ、画面が小さかった時代に、技術革新を実現した製品が商品化されていたのである。この例からも分かるように、イノベーションは必ずしも技術革新を意味しない。企業にとってのイノベーションとは、幾多の新製品、ヒット商品を市場に投入し、その結果として社会に変化をもたらし、売上・利益を上げ、その成果を享受することがゴールなのである。その最たる例がアップル社である。実際、アップル社は他のスマートフォンメーカーが売り上げは増加しても利益率が低い中、彼らだけが高収益を上げてイノベーションの果実を享受しているのである。